2017年3月、政府の働き方改革実現会議が策定した実行計画で、建設業に時間外労働の罰則付き上限規制を適用する方針が決まった。自然条件に労働時間が左右されることから、建設業は時間外労働の上限規制の適用除外とされてきたが、次期通常国会で働き方改革関連法が成立すれば、施行後5年の猶予期間を設けた上で、他産業と同水準の罰則付き上限規制が課される。上限規制の適用を見据えたこの1年の動きを振り返った。
■施行後5年は猶予期間
労働基準法では、労働時間の上限を1日8時間・週40時間と定めており、企業がこの上限を超えて従業員を働かせる場合、労使で「三六(サブロク)協定」を結び、労働基準監督署に届け出なくてはならない。三六協定にも月45時間・年360時間を上限としているが、「特別条項」を付帯すれば繁忙期などにはこの上限を超える時間外労働も認められている。
2017年9月までに厚生労働省がまとめた働き方改革関連法案では、現在は告示で定めている三六協定を法律に格上げし、違反者に対する罰則で強制力を持たせる。三六協定の特別条項でも上回ることのできない年間労働時間(年720時間)を設定している。
告示の適用除外である建設業は、関連法の施行後5年間は現行制度を適用し、施行後5年以降、他産業と同じ罰則付き上限規制を適用する。政府は、適用除外である現状を踏まえ、長時間労働是正に向けた環境整備と支援措置を講じる。
■適正な工期設定へガイドライン
上限規制の適用に向け国土交通省がまず取り組んだのは適正な工期の設定。昨年8月に開いた関係省庁連絡会議で「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン」をまとめ、関係省庁がそれぞれの所管分野でガイドラインに沿った適正工期の設定を働き掛けることを決めた。
ガイドラインでは、適正な工期を設定する上での受発注者の役割を明確化。発注者には施工条件を明確にした請負契約の締結、受注者(元請け)には長時間労働を前提とする不当に短い工期、いわゆる〝工期ダンピング〟の排除などを求めた。
国交省は、ガイドラインの順守を受発注者に働き掛けるとともに、工期設定の実態を改めて把握した上で、ガイドラインを改訂する方針。時間外労働の上限規制を見据え、ガイドラインをより強制力の強い約款や法律に引き上げることも視野に入れている。
■民間発注者に協力要請
民間発注者に対し、建設業の働き方改革への理解を促す取り組みも始まった。17年7月には、日本経済団体連合会、日本商工会議所、民間発注者団体、労働組合、建設業団体が参加する「建設業の働き方改革に関する協議会」が発足した。
初会合で野上浩太郎官房副長官は「建設業の長時間労働の是正、週休2日の確保に向け、適正工期の設定や施工時期の平準化に理解と協力をお願いしたい」と民間発注者に理解を求める一方、受注者側にも適正な工期設定や適切な労務管理を求め、受発注者双方が問題意識を共有する必要性を指摘した。
さらに、鉄道、電力、ガス、住宅・不動産の4分野で受発注者が参加する連絡会議もそれぞれ設置された。国交省は、18年度に各分野の工期設定や発注手続きに関する実態調査を行うとともに、連絡会議に参加する受発注者に協力を求め、工期の適正化に取り組む民間発注者を対象とする先導的モデル事業を実施する考えだ。
■自主規制に動く建設業界
受注者側の建設業団体も対応を始めた。
日本建設業連合会(日建連、山内隆司会長)は▽働き方改革推進の基本方針▽時間害労働の適正化に向けた自主規制の試行▽週休2日実現行動計画試案▽改めて労務賃金改善の推進―の〝働き方改革4点セット〟を策定。
時間外労働の上限規制が適用される5年後を見据え、会員企業が時間外労働を19~21年度に年960時間以内、22・23年度に年840時間以内に抑制する自主規制を行う。また週休2日実現行動計画で19年度から毎月第2・第4土曜日の統一閉所運動を始めるなどとしている。
全国建設業協会(全建、近藤晴貞会長)は、17年9月の協議員会で「働き方改革行動憲章」を決定。会員企業が長時間労働や労働条件の悪化につながる短工期での受注を厳に行わないことに加え、元請けとして下請けの労働環境改善に責任ある対応を行うなどと明記した。
■週休2日対応、間接費に補正も
厚生労働省の就労条件総合調査によると、建設業で完全週休2日制を導入している企業の割合は27.4%で、全産業では運輸業・郵便業の25.1%に続くワースト2位。週休2日の確保は、建設業の働き方改革に欠かすことのできないテーマの一つだ。
建設現場で週休2日を実現するため、国土交通省の直轄工事では、適正工期を設定するためのツールとして▽準備・後片付け期間▽工期設定支援システム▽工事工程の受発注者間での共有▽週休2日を考慮した間接工事費の補正―を整えた。
このうち工期設定支援システムは、歩掛りごとの標準的な作業日数や作業手順を自動算出できるもので、17年度から原則として全工事(維持工事除く)に適用した。ホームページ上で公開し、公共工事・民間工事を問わず、受発注者が無償でダウンロードできるようにした。
週休2日に取り組む工事に対する間接工事費の補正も17年度から試行している。週休2日相当(降雨時の休日など含む)の現場閉所を実施した現場には、共通仮設費率に1.02倍、現場管理費に1.04倍の補正係数を乗じた間接工事費を上乗せしている。
直轄工事での対応に合わせ、週休2日モデル工事を実施する都道府県も16年度の16団体から30団体(17年10月時点)に増加した。都道府県ごとの実施状況(17年度)を見ると、100件以上を実施するのは1団体で、最も多いのは10~49件の17団体だった。、
公共工事が週休2日実現に歩み出した一方、民間工事ではまだまだ根深い課題が残る。民間工事の発注者には、建設業界側が主張する「土曜閉所」に対し、休暇を土日に限らない「シフト制」で週休2日の実現を迫る声が強い。シフト制で各企業が週休2日制を導入すれば、工期延長やそれに伴うコスト増を抑制できるためだ。今後、民間工事の受発注者間で働き方改革を議論する際、最大の論点の一つになることが予想される。
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1月にも開会する通常国会で、働き方改革関連法が成立すれば、建設業にはいや応なしに時間外労働の上限規制が課される。1人当たりの労働時間を減らせば、1人当たりの生産性を高めることも必要になる。新しい1年は建設業が長年の慣習を変える転換点になるはずだ。