▲コンパクトに配置された各施設
埼玉県北西部に位置する横瀬町は、武甲山から産出する石灰石を使ったセメント製造が主要産業の一つになっている。そのセメント製造を担っているのが三菱マテリアル横瀬工場だ。内陸にあるという輸送コスト面でのデメリットを、高度な設備と優秀なスタッフによる生産の合理化でカバーする一方、廃棄物などの受け入れの面では人口集中圏に近接することで優位性を発揮している。
三菱マテリアル横瀬工場は2基のロータリーキルンを備え、年間150万㌧の生産能力を持つ。キルンに火入れしたのは1969年。約50年の歴史があるが、国内では2番目に新しい。
工場の運転は、オペレーター1人を含む1班4人体制で行っている。1班当たり4人という人数は日本のセメント工場では最少だという。これを可能にしているのが合理的な施設の配置と全自動品質管理システムだ。
原料工程と焼成工程、仕上げ工程の各設備をコの字型にコンパクトに配置、その中央に操作室を置いている。そのため、トラブルが発生しても係員がすぐその場所に駆け付けることができる。品質管理システムは、各製造工程からサンプルを自動で集め、1時間に7検体をチェックする能力を備える。
工場長の水間誠一氏は「セメント工場の歴史は省エネと省力化の歴史。プレヒーターの導入など日本のセメント製造技術が確立してから建設された工場なので、これだけ合理的でコンパクトにできた」と説明する。
しかし、省力化の実現に関して水間氏が最も強調するのは「運転に携わるスタッフ一人一人の能力の高さ」だ。「責任感の強い横瀬の人の気質と、ベテランから若手へのノウハウの継承による現場力の高さが合理化を実現している」と話す。
現場力の高さは同工場の故障率の低さにも表れている。運転時間に占める設備の故障による停止時間の割合である故障率は2016年度、0.058%だった。世界的にも例がない水準だという。約100人の従業員の大半は地元住民だ。地元の主要産業で働く従業員の責任感がその数字に表れている。
事故防止で優秀な実績を上げている同工場だが、周辺に影響を及ぼす重大なトラブルが皆無だった訳ではない。工場の構内には「2010年9月29日を私たちは決して忘れません」と書いた看板が掲示してある。その日、午前1時12分から1時間38分間にわたって1号キルンクリンカークーラーの排気ダクトからダストが漏れ、半径750㍍にわたって車や衣類、太陽光パネルの汚れなどの被害が発生した。
看板には事故の原因や経緯などが詳しく記してある。住民からの苦情の中には「地元企業として大切に思い信頼している」「期待を裏切るな」といった声のほか、「応援しています」という励ましもあったという。同工場ではその事故以来、毎年9月29日を「環境の日」と定め、全従業員が参加して工場周辺の道路やガードレールの清掃活動を実施、事故防止に対する意識を胸に刻んでいる。
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人口集中圏に近接する同工場は、廃棄物や副産物の原料・燃料としての受け入れの面で有利だ。セメント1トン当たりの廃棄物などの使用量は16年度、全国平均が474㌔㌘であったのに対して同工場の実績は517㌔㌘だった。
集荷範囲は関東圏だけでなく東北南部や中部圏に及ぶ。下水汚泥は16年度、約115万人分の8万㌧を受け入れた。廃プラスチックは2万4600㌧を処理、2万5000㌧のCO2を削減した。
水間氏は「文明に必要な素材であるセメントを供給しながら循環型社会を根底から支えている」と、同工場を典型的な事例としてセメント産業の存在価値を強調する。(地方建設専門紙の会)