▲アンケート調査の結果、AI開発支援プラットフォーム
国土交通省は、2014年度に法定化した橋梁・トンネルの定期点検にロボット技術の活用を認める。全国の橋梁約73万橋、トンネル約1万本の「全数監視」、点検知識のある技術者による「近接目視」を原則とした5年周期の定期点検は、18年度末に一巡目の点検を終える。この5年で道路管理者である地方自治体のマンパワー不足は改めて浮き彫りになった。ドローンで大量の写真を撮影、コンクリートの浮き・剥離を非破壊で検査する点検支援ロボットを投入し、二巡目以降の作業の効率化を狙う。さらに、ロボットが撮影した大量の写真からインフラの損傷を自動抽出する人工知能(AI)が開発されれば、さらに点検作業は効率化される。
■定期点検の基本は近接目視
道路橋とトンネルには、14年7月から近接目視による定期点検が義務付けられている。国・自治体などの道路管理者は、17年度末までに橋梁で80%、トンネルで71%の点検を完了した。18年度末には全ての橋梁、トンネルで点検を終える見通しだ。
5年周期の定期点検が順調なペースで進む一方、自治体は全数監視を原則とする点検に負担を感じている。国交省が行ったアンケート調査によると、全ての都道府県・市区町村のうち、予算上の負担を全体の77・2%、職員の労務上の負担を61%、職員の技術的な負担を47%の自治体が感じている。点検支援技術に対しては、コスト縮減、労務上の負担軽減、技術的な判断支援などの効果を期待する声が高い=グラフ参照=。
ただ、現行の定期点検要領は、技術者による近接目視を前提としており、今の定期点検にロボット技術を採用することは原則としてできない。
■ロボット技術、繰り返される現場実証
9人の死者を出す大惨事となった笹子トンネルの天井板崩落事故を受け、2014年4月、社会資本整備審議会道路分科会は『最後の警告』という強い言葉で、道路管理者に老朽化対策の本格実施を迫った。それから5年、一巡目の定期点検は終わりつつある。各道路管理者は技術職員不足を補いつつ、当初掲げた「全数監視」の目標をほぼ達成する見通しだ。
ただ、二巡目以降の定期点検の持続性を確保するためには、近接目視で確実性を重視してきた定期点検に効率化の視点を持ち込む必要がある。
二巡目の定期点検の効率化を図る上で、最大のツールとなる点検支援ロボットを実用化するため、国交省は14年度から技術公募や現場検証を繰り返している。17年度には、現場検証で性能を確認した「赤外線調査トータルサポートシステム Jシステム」(西日本高速道路エンジニアリング四国)を直轄事業の現場で試行した。
非破壊検査は、遠望非接触であるために足場や交通規制がいらず、点検のコスト縮減に効果がある。国交省の試算によると、橋梁の平均面積(218平方㍍)当たりの検査費用は、従来型の打音検査だと約11万円だが、非破壊検査と打音検査をセットで行うことで約8万円に抑えることができるという。
ただ、この試行は橋梁のコンクリート部材の落下を防ぐために行う「第三者被害予防措置」を対象に試行したもので、定期点検にロボット技術が導入されたわけではない。
18年度は、直轄国道のトンネル・橋梁の定期点検に試行を展開。直轄の定期点検10件程度で、ロボット技術の活用経費を上乗せし、従来手法とは別にロボット技術の点検結果の納品を求める。対象となるのは、これまでの現場実証で性能評価の結果を公表した点検支援ロボット技術11件(橋梁7件、トンネル4件)。
■技術者が性能確認、発注者に計画提出
点検の精度検証と並行し、定期点検に点検支援ロボットを活用するためのルールづくりも進む。国交省は、18年度末までに定期点検要領を改定し、近接目視で劣化状況を把握しきれなかった場合、また定期点検を行う技術者が自らと同レベルの点検結果を得られると判断した場合、点検支援ロボットなどの新技術の活用を認める方針だ。
受発注者が活用する新技術の性能を確認し、定期点検業務で活用できるよう、国交省は要領の改定に合わせて「新技術利用のガイドライン」と「新技術の性能カタログ」をまとめる。
性能カタログには、開発メーカーが新技術の性能値を記載。このカタログを参考に、点検業務の受注者は使用する技術を明示した計画を発注者に提出。発注者がその内容を確認・受理すれば、定期点検業務に新技術を活用できるようになる。
■大量の画像から損傷を自動抽出
国交省は、点検支援ロボットの活用に道筋を付ける一方、点検支援ロボットが撮影する大量の点検画像から、損傷を自動検出する画像認識AIの開発にも着手した。ロボットによる点検作業の効率化に、AIで点検結果の診断を支援し、さらに生産性を向上させるのが狙いだ。
点検・診断に活用できるAIの開発に大きな役割を果たすのは、国交省がAI企業、ゼネコン、建設コンサルタント、道路管理者らを集めて18年度中に立ち上げる「AI等開発支援プラットホーム」。
AIが大量の画像から損傷を検出し、健全度や劣化を判断するためには、AIが技術者の正しい判断を学習するための「教師データ」を整備する必要がある。このプラットホームでは、これまでの点検支援ロボットの現場実証で得られたデータから、損傷の有無、損傷の位置、損傷の範囲をAIに推論させるための教師データを開発する。
教師データは、プラットホームに参加する企業に提供され、各企業のAI開発に活用してもらう。国交省が開発されたAIの性能評価も行う。
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人の手によることを基本としてきたインフラの点検は、技術者が性能を確認するという条件の下、ロボット技術の導入という新たなフェーズに入る。開発が本格化するAIは点検結果の診断を効率化する役割を果たすことになる。政府は、25年度までに建設現場の生産性を2割向上させる目標を打ち出している。点検・診断などのインフラの維持管理分野では、ロボット技術やAIが生産性向上の中核を担うことになる。