▲本社からの遠隔操縦
日向市の旭建設株式会社(黒木繁人代表取締役)は、12月4日、携帯電話の通信圏外にある西米良村の地すべり対策工事現場で、衛星ブロードバンド「Starlink(スターリンク)」を活用したドローンの遠隔操縦実証実験を行い、日向市内の本社DXルームからリアルタイムでの三次元空撮測量に成功したと発表した。
同社が事業基盤を置く中山間地域では、現場間の移動時間が生産性を圧迫する最大の要因となっていた。山間奥地の現場では、携帯キャリアの電波が入らない「不感地帯」が多く存在し、既存の通信技術では遠隔管理が不可能となっていた。
こうした課題を踏まえ同社は、高機能ドローンと衛星通信スターリンクを組み合わせたシステムを構築。実証実験で「3次元測量データ」の取得及び「現場空撮」を完遂し、今後の移動時間削減等による生産性向上に道筋をつけた。
今回の実証では、操縦者が目視できない遠隔地であることを踏まえ、▽通信遮断時の即時対応(人的バックアップ)▽俯瞰カメラによる空間認識の確保▽ジオフェンスによるエリア逸脱防止―といった厳重なリスク対策を講じ、無事故での運用を実現した。
このうち、通信遮断時の即時対応に関しては、衛星通信の途絶リスクに備え、現場には監視員(パイロット)を配置。万が一の制御不能時には、即座に現場の送信機(プロポ)で主導権を取り戻し、手動操縦へ切り替える体制を確立した。
また、遠隔操縦者がドローン搭載のカメラ映像(FPV)だけに頼ると、周囲の樹木等との距離感がつかめず衝突リスクが高まることから、現場全体を見渡す「俯瞰カメラ」を別途設置。周囲の障害物の位置関係を客観的に把握しながらの操縦を実現した。
さらに、事前に飛行可能エリア(高度・四方)に仮想の壁「ジオフェンス」を設定。操作ミス等でドローンがエリア外に出ようとしても、システムが自動で停止するため、衝突や行方不明を物理的に防ぐ対策を講じた。
ドローンを操縦したエンダレイ・ウーさんは「画面の映像だけを頼りにドローンを飛ばすのは、距離感がつかみにくく怖さもあった。通信環境を整える準備も大変だが、往復4時間かかる現場作業をオフィスで完了できる。移動による拘束や事故リスクがなくなることは、私達技術者にとって大きなメリットだ」と話した。
今回の実証で、移動に往復約4時間(移動距離約100㎞)を要していた山間地現場の管理業務を、本社オフィスから安全かつ瞬時に行うことが可能となった。建設業界の課題である2024年問題及び担い手不足に対し、技術による抜本的な解決策を提示した。
プロジェクトの企画者である木下哲治取締役専務は、「地方の建設業にとって、移動時間や通信環境は大きな課題。『距離』と『通信』のハンデを最新技術で解消し、社員の安全と効率を守り抜くことこそが、地域建設業の未来を拓くと確信している」と話した。
同社は、今回の遠隔システムを県内の他現場に水平展開し、業務の標準化を進めるとともに、平時の工事利用にとどまらず、災害時に人が立ち入れない被災地の状況を迅速に把握するなど、地域の安全を守るための技術としても活用範囲を広げていくとしている。