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持続可能なインフラメンテへ 新技術・新工法導入の契機に

      

▲写真は野尻周男氏、松田成悟氏、パネルディスカッション

 インフラメンテナンス国民会議九州フォーラムが主催する第9回ピッチイベント「持続可能な『ひなたの国』のインフラメンテナンス」が、1月25日に宮崎市内で行われた。イベントには、民間及び行政の技術系職員ら多数が来場したほか、オンラインでも配信。基調講演やパネルディスカッションを通じて、市町村管理橋梁のメンテナンスの課題や今後のあり方を考えた。2回に分けてイベントの内容を掲載する(後編)。

 ピッチイベントの第2部では、「市町村管理橋梁のメンテナンスの現状と未来へのきざし」をテーマに、パネルディスカッションを行った。

 ファシリテーターは宮崎大学工学教育研究部の森田千尋教授、パネリストは宮崎県県土整備部道路保全課の山下明男課長、公益財団法人宮崎県建設技術推進機構の境光郎副理事長、宮崎市建設部道路維持課の徳村一哉課長、高千穂町建設課の甲斐徹課長、株式会社晃和コンサルタントの野尻周男代表取締役、有限会社松田測量設計事務所の松田成悟代表取締役が務めた。

 森田氏は、県内26市町村を対象に行ったアンケートの調査結果を踏まえ、「地方の自治体では、人材や予算、技術力が不足し、新技術・新工法の利活用に踏み切れていないのが現状」と指摘。「県内に於ける市町村支援の取り組みや諸課題への解決策となる新技術・新工法の導入のきっかけになれば、ひなたの国のインフラメンテナンスに向けた明るい未来への兆しが見えてくるのではないか」とイベントの開催趣旨を説明した。

 市町村へのアンケートでは、多くの自治体で道路関係や上下水道関係のメンテナンスに係る課題を解決したいと考えている一方、「知識や経験に富んだ専門職員及び若手人材が不足し、技術の継承が進んでいない」「近年の物価高騰や維持管理施設が多いことから必要な予算が確保できない」といった悩みを抱えていることが分かった。

 さらに、「経済的かつ効果的なメリットが少ない」「地方や現場の条件に適合するものがない」「技術者の知識・経験不足」などを理由に、新技術・新工法の活用が進んでいない現状が浮き彫りとなった。

 こうした中で、高千穂町の現状を説明した甲斐氏は、町管理橋梁の点検に際して、点検車や梯子、ロープアクセスによる近接目視を基本に、点検コストや現場条件が合致する場合にはUAV等の点検支援技術を活用していることを紹介。ライフサイクルコストの最小化を第一に考え、予防保全型の維持管理を推進していることを説明した。

 メンテナンスの課題に関しては、多くの自治体と同様に人材や予算の不足、技術力の継承を挙げ、「山間地域の自治体を含めた土木業界全体に言えることだと思うが、地域住民の安全・安心を確保するためには、若い世代の技術職育成や現場で活躍できる人材の教育充実が必要であり、これが技術力の継承に繋がる」とした。

 市町村支援の取り組みについて発言した山下氏は、国の交付金や補助事業に関する情報を市町村と共有していることや、市町村から相談があった事業の規模や補助率等を考慮し、計画的かつ有利な事業展開が図れるよう技術的助言を行っていることを説明。

 また、宮崎県コンクリート診断士会と協定を締結し、市町村の点検・診断に対する支援体制を強化していること、橋梁維持管理研修など技術力の向上を目的とした研修を開催していること、市町村が実施する橋梁の点検・診断に係る発注事務を宮崎県建設技術推進機構が代行する「地域一括発注」に取り組んでいることを紹介した。

 このうち、地域一括発注の取り組みに関連して野尻氏は、自身も所属する宮崎県測量設計事業協同組合が同機構から受託している点検・診断業務について説明。参加会社や橋梁診断員、橋梁点検員に求める資格を厳格に審査し、県内を4地区に区分して、各ブロックに実績豊富な地区診断者を配置していることを紹介した。

 また、成果物の品質を統一化するため、点検診断要領を作成し、定期的に講習会を開催していること、3段階の診断に加え、技術検討会による判定会議や管理・照査技術者によるチェックを行い、品質の確保に努めていることを説明。地域一括発注のメリットとして、正確な診断と判定の統一化、スケールメリットを挙げた。

 宮崎県建設技術推進機構の境氏は、市町村に於ける土木部門の職員数の減少や、専門的な知識が必要となる業務量の増加などを背景に、地域一括発注のほか、個別施設計画の策定・更新業務や技術相談をはじめとしたアセットマネジメント支援事業に取り組んでいることを説明。新たな取り組みを検討していることも紹介した。

 徳村氏は、橋梁点検に於ける新技術の活用事例として、萩ヶ瀬大橋(橋長約210m、橋脚高さ約35m)の点検に際して、橋梁点検車にドローン及び画像診断を組み合わせた点検を行ったことを説明。従来のロープアクセスによる点検と比較して、こうした新技術の活用が点検コストの縮減に繋がったことを報告した。

 一方で、市が管理する橋梁の約7割を小規模橋梁が占めており、費用や効率の面から従来点検よりも劣ること、ハイピア橋梁等に於いても、橋脚の周囲に樹木等の障害物があるなど、周辺の状況によってはドローンが使用できないことから、前述の1橋を除いて新技術が導入できていない状況にあることを説明した。

 こうした課題に対して松田氏は、国土交通省の点検支援技術性能カタログの中から、新技術の活用事例を紹介。小規模橋梁を対象としたコンクリート構造物変状部検知システムや橋梁等構造物の点検ロボットカメラ、ハイピア対策の赤外線調査支援システム、壁面走行ロボットを用いたコンクリート点検システムの特徴を説明した。

 新技術の活用に向けた課題として、専門のオペレーターを常駐させることに伴い、地方では旅費交通費や宿泊費等の費用がかかり、都市部と比較して割高になると指摘。地方で新技術の導入を進めるためには、県と市町村の連携などスケールメリットを活かした経済性の向上や、新技術の活用に関する官民の情報共有が必要とした。

 これを踏まえて境氏は、2019~23年度の県内に於ける新技術の活用実績が、経済性の観点から67件にとどまっていることを説明。今後の技術者の減少やコストの増加等に対応するためには、新技術を活用した維持管理及び更新の高度化・効率化が重要として、関係機関及び団体の意見を踏まえ、積極的な活用に努める考えを示した。

 参加者との質疑応答では、「新技術を導入する際に関係機関で情報共有ができないか」といった質問に対し、国土交通省九州地方整備局宮崎河川国道事務所の担当者が、「宮崎県道路メンテナンス会議を通じて、新技術に関する情報提供を行っているほか、実際に使用した新技術に関する現場見学会を開催している」と回答した。

 パネルディスカッションを総括した森田氏は、自治体が人材・予算・技術力不足に悩む中、地方で新技術を活用するためには、スケールメリットを活用したコスト縮減や新技術の導入に関する情報共有が不可欠と指摘。自治体の職員でも使える新技術の開発が、「ひなたの国のインフラメンテナンスに向けた明るい未来への兆しに繋がる」とまとめた。