▲銀座8丁目開発計画の外観イメージ、長門市本庁舎の5層吹き抜け、フォルターブの外観
木造による中高層建築物の建設を促進する取り組みが進んでいる。その中から特徴的な事例を三つ紹介する。キーワードは、「企業戦略」「地産地消」「規格商品化」だ。その目指すところは―。
■企業戦略
SDGsに対応、耐火木造建築ビルの開発に注力~ヒューリック(中央区)の「(仮称)銀座8丁目計画」
いま、国内外の多くの企業が、SDGs(持続可能な開発目標)に対応する環境に配慮する施策などを追求している。ヒューリックは、2030年までに自社のCO2排出量を13年度比で45%削減するという目標を掲げる。実現する手法の一つが、耐火木造建築ビルの開発だ。
「銀座8丁目計画」は、日本を代表する繁華街の一つである銀座・中央通りの一等地に建設する。人の目に留まりやすい場所にテナントビルを建てることで、「温もり」「癒やし」といった〝木の魅力〟を、より多くの人に実感してもらい、木造建築の良さをPRする。
計画している建物は、耐火木造の地下1階地上12階建てで延床面積約2400m2のテナントビル。鉄骨造をコアに配置することで水平方向の抵抗力を高め、耐震性を確保。その周囲を木造で取り囲むハイブリッド建築だ。設計・施工とも竹中工務店(江東区)が担当して20年3月に本体建築工事を開始し、21年12月の開業を目指す。
詳しく見ると、木造部の柱・梁に、竹中工務店が開発した耐火集成木材「燃エンウッド(もえんうっど)」を採用。床はCLTの上に鉄筋コンクリートを重ねた合成床とし〝CLTの下面=下の階の天井〟とすることで、柱・梁・天井の各木造部材が露出する現し(あらわし)仕上げを実現する。
建物正面全体を飾るファサードにも特殊な処理を施し耐久性を高めた木材を使用。このデザインは建築家の隈研吾氏。〝都市の中の森〟をイメージしてまとめた。
ヒューリックは、今後の木造建築の取り組みについて、銀座周辺で計画する事業ビルで可能な限り採用する他、老人ホームなどの中低層建築へ積極的に導入する方針だ。
■地産地消
地元林業資源で大規模建築を実現(長門市本庁舎建設工事)木材調達・加工=ウッドネット西部やまぐち協同組合・日本木造耐火建築協会JV、建築=熊谷組・安藤建設JV
山口県長門市は土地の森林率が74%と高く、2万2000m2に及ぶ市有林を管理している。長門市本庁舎はこの地元の資源をふんだんに使用して、2019年8月に完成した。
5階建て延床面積7200m2超の本庁舎は、建物の両側を鉄筋コンクリート造、その内側を木造とするハイブリッド建築。床・壁・天井はもちろん、木造部分の柱・梁といった構造部分や建物の外部に張り出したエントランス棟の内外装に用いた木材はみな地元産材だ。加工した柱や梁を耐火仕様の大断面集成材とし、スパン長12㍍という大空間を実現している。
この建物の特徴の一つは施工体制にある。工事発注の際に、「原木から製品加工までの業務」と「建築工事」を分離したのだ。木材加工などの業務を担当したウッドネット西部やまぐち協同組合・日本木造耐火建築協会JVは、使用する全ての木材の伐採・製材・乾燥から、施工図の作成・プレカット・接合金物の製作取り付けまでを担当、出来上がった部材を現場に搬入した。
さらに、用材の加工も技術的・能力的に可能なものを、できるだけ地元で実施した。例えば、重ね梁は長門市有林で原木を伐採・製材・乾燥し、山口市内でプレーナー(平面削り)加工。長門市内の工場で製作した金物と共に山陽小野田市と防府市の工場に持ち込んで組み上げた。いずれも山口県内の企業だ。
こうして地産地消にこだわり完成した市庁舎に使用した木材は、スギが6535本、ヒノキが1027本。総量は2300m3を超えた。これは一般の一戸建て住宅に使用する木材の約39棟分。原木の調達には、東京ドーム約18個分に相当する森林を間伐した。
■規格商品化
独自のCLT工法を開発、賃貸住宅を発売
昨年10月、国内で初めてCLT工法による中層集合住宅を規格化した商品が登場した。大東建託の木造4階建て賃貸住宅「Forterb(フォルターブ)」だ。木材の利用を促進するのに加え、鉄筋コンクリート造などと代替することによるCO2の削減、施工の省力化、工期短縮などを見込む。こうした点は行政にも高く評価され、年末には環境省が実施する「地球温暖化防止活動環境大臣表彰(技術開発・製品化部門)」を受賞した。住宅メーカーによる同部門の受賞は14年ぶりとなる。
フォルターブは工場で加工したCLTパネルに独自の金物を取り付け「ドリフトピン」で固定する仕様。金物はパネルの四隅に埋め込まれたBOX型金物とパネル上下の木口に差したピン型の金物などがあり、パネルを重ねてドリフトピンを差し込むと固定が完了する。作業は簡易で、パネル表面にピンの頭しか見えないすっきりとした仕上がりだ。
また、CLTパネルの外側にあらかじめ耐火被覆材を張り重ねておくことで、従来の施工方法よりも短時間で組み立てることができる。耐火構造建築として都市部の防火地域にも同工法による建設を提案し、まずは年間100棟の販売を目指す。
CLTには「遮熱性が高い」「構造体として使用できる」といった特長があるものの、他の工法に比べて施工費用が割高となる傾向があった。フォルターブのような商品が出そろえば、やがて大きなコストダウンにもつながるはずだ。
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取材を通して、木造中高層建築がこの1年でより身近な存在になったと感じた。木造中高層は〝モデル事業〟や〝実験〟の域を脱し、〝日常の一部〟となりつつある。住宅、商業、オフィス―あらゆる用途で、遠くない未来に木造のビルが立ち並ぶ日が来るかもしれない。
同時に取材先の誰もが木の魅力と森の循環について熱く語っていた。居心地の良い空間に木は欠かせない。さらに木を活用することで国内の林業・木材産業の成長を促し、ひいては地球温暖化対策への貢献を目指すことが、建設・不動産業界にも求められている。