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改正建設業法10月施行 「適正な工期設定」後押し

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▲画像は工期に関する基準と違反した場合の措置

 現場に従事する技術者、技能者の長時間労働を是正するため、「著しく短い工期」での契約を禁止する改正建設業法が今年10月1日に施行される。建設業法ではこれまでも、契約書への工期の記載を求めていたが、建設業に時間外労働の上限規制が適用されることを見据え、受注者だけでなく、発注者にも適正な工期設定を求める、初めての法的な枠組みを整える。

■工期に影響する事象「契約前に通知」

 改正建設業法では、「著しく短い工期」での請負契約を禁止するとともに、注文者(発注者、元請け、上位下請け)に、工期に影響を与える事象を受注者に契約前に通知する義務を課す。工期の延長につながる▽地中の状況(支持地盤深度、地下埋設物、土壌汚染など)▽設計に起因する調整(設計図書との調整、設計間の整合など)▽周辺環境(近隣対応、騒音振動、日照阻害など)▽資材調達―の情報をあらかじめ建設業者に提供し、施工の手戻りを防ぐ。
 受注者である建設業者にも、工程ごとの作業と必要な日数を見積書に盛り込むことを求める。

■許可行政庁が発注者に勧告

 建設業法には「不当に低い請負代金」と「不当な使用資材等の購入強制」を禁止する規定がある。いわゆる「指し値発注」や「赤伝処理」などから下請けを保護するための規定で、許可行政庁などは違反した建設業者がいた場合、公正取引委員会に措置請求を行うことができる。
 改正法では「著しく短い工期」での契約に対し、許可行政庁が勧告・指示できる権限を与える。この新たな枠組みの特徴は、許可行政庁が短工期を強いる発注者にも勧告できるところだ。地方整備局の「駆け込みホットライン」などに寄せられた通報をきっかけとして、許可行政庁は発注者を勧告する。勧告に従わない発注者を公表することもできる。
 通報の対象が建設業者(元請け、上位下請け)である場合は、勧告だけでなく指示処分もできる。
 公共工事の発注者には、民間発注者と異なる役割も求める。建設業法と一体で改正された入札契約適性化法では、公共工事の元請けが下請けと「著しく短い工期」で下請け契約を結んだ疑いがある場合、許可行政庁に通知する義務を課している。

「中建審WGが基準作成に着手」

 ここで課題になるのは個々の工事が「著しく短い工期」であるかを一律に判断できないことだ。工期は、工事の内容や工法、投入する人材・資材の量によって異なるため、個々の工事の適正性を判断することは難しい。
 そこで改正法では、中央建設業審議会に工期の適正性を判断するための「工期に関する基準」を作成する権限を持たせた。国交省が一方的に基準を定めるのではなく、民間発注者や受注者の代表者も参加する中建審で、受発注者が合意した基準をつくるのが狙いだ。国交省は、中建審にワーキンググループを設け、昨年11月に基準の作成をスタートした。
 ただし、10月1日の改正法施行までにまとまる基準は、個々の工事の工期の基準を「工期○○○日」と定量的に示すものではなく、あくまでも定性的なものになる見通し。準備期間・後片付け期間を含め、工程の各段階で考慮すべき事項を定性的に盛り込むことが想定されている=図参照=。
 一方、設計変更が行われても、工期変更が認められないといった声は多い。発注者が設定した工期が仮に適正性を欠いたものであったとしても、受注者からの工期変更の要請に応じれば、結果として適正な工期は確保される。このため、国交省は「著しく短い工期」を判断する際、工期変更を重点的にチェックする考えだ。

「有識者の意見も反映」

 建設業者から通報があった場合、まず許可行政庁は、基準に盛り込まれた休日や雨天による不稼働日などを考慮したかを確認。加えて、過去の類似工事における工期との比較、建設業者が提出した見積もりも精査する。ただ、工事の生産性を飛躍的に高める新技術などを活用した場合、「工期に関する基準」では予見できない工期短縮を長時間労働を伴わずに実現できる可能性も完全に否定はできない。このため、最終的な勧告の対象は、有識者の技術的な意見も踏まえて判断する。

■工期設定支援システムを活用

 工期設定の方法には、受注者・発注者の経験値に頼ってきた側面がある。公共工事では、予定価格を設定するための積算基準は整備されているものの、積算基準と工期は明確に連動していない。ただ、経験値だけで工期を組むと、現場の工程とのズレが生じ、無理な工期を設定することにもなりかねない。建設業の働き方改革が求められる中、こうした経験値と実工期とのズレをシステム活用によって是正する取り組みが始まっている。
 国土交通省の直轄土木工事には、数量と日当たり施工量から工期を自動算出できる「工期設定支援システム」が2017年度に導入された。
 土木工事積算システムで出力した数量と日当たり施工量から工種ごとに標準的な必要日数を算出し、バーチャート形式で工程表を作成。地域の雨休率、準備・後片付けの設定などにも対応している。標準的な工期と比べて1割以上の短い工期を確認すると注意喚起のメッセージを出すなど、適正な工期設定を支援する機能も組み込んでいる。
 19年8月のシステム改良では、直轄工事の過去の工程データを教師データとして、人工知能(AI)が工程表の作成をサポートする機能も追加。合わせて、地方自治体の発注工事でも広く活用できるよう、同省のホームページ上でシステムの仕様を公開した。自治体が利用する積算システムのベンダーに工期設定支援システムとの互換性を持たせるシステム改良を促している。
 一方、建築分野では、16年4月に日本建設業連合会(日建連、山内隆司会長)が開発した「建築工事適正工期算定プログラム」の普及が進む。このプログラムでは、利用者が建物データ(階数、面積、構造、外装仕上げなど)を入力すると、あらかじめ設定された施工手順によってネットワーク工程表が作成できる。
 このプログラムは、国・地方自治体などの発注者には無償で貸与されている。直轄の営繕工事では、設計担当部署に活用され、受注者側が想定する工期と大きなズレが生じないチェック機能を果たしている。

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 少子高齢化に伴う人手不足を補うため、生産性の向上が全産業に共通する最大の課題になっている。少ない労働力で出来高を伸ばす最も安易な解決策は、一人一人の労働者に長時間労働を強いることだ。特に建設業は、2000年代に激化した価格競争を労務の集中による工期短縮で乗り切ってきた側面がある。こうした商慣習が引き起こした賃金の低下や労働環境の悪化は、今の担い手不足を引き起こす原因の一つになった。
 24年4月から時間外労働への罰則付上限規制が建設業に適用される。これを見据えた改正建設業法には、現場の労働者の長時間労働で工期短縮を実現するような、これまでの商慣習を認めないという明確な意志が込められている。