延岡市は公募型プロポーザル方式で「野口遵記念館建設設計業務委託」の候補事業者の選定を実施。代表企業の優秀者に香山壽夫建築研究所(東京都文京区)を特定した。延岡市の歴史的成り立ちへの深い理解や止揚、建築計画の合理性、多機能ホールの機能性、コスト縮減、設計の進め方等の緻密性などを高く評価した。
経年に伴う躯体や設備の老朽化に伴い、抜本的な対策が急務となっている延岡市公会堂野口記念館を現在地に建て替える計画。旭化成からの寄附金30億円を財源に充て、再整備に伴い施設の名称を野口遵記念館に改称する。平成34年5月の開館を目標に、30~31年度に基本・実施設計、32~33年度に建設工事を行う予定でいる。
新施設には、客席数600~700席程度を有する音楽重心型の「ホール機能」、野口遵翁顕彰ギャラリーや展示室を含む「展示機能」、各種会議やミニコンサート、音楽・ダンス等の練習に加えて自由に休憩・滞在できる「交流機能」、事務室・受付等の「管理機能」を配置。各機能を踏まえた新施設の面積を4200m2程度と設定する。
設計業務の候補者の選定は、代表企業枠と市内企業枠に分けて実施。代表企業枠は、7月27日に行った第一次審査(書類審査)で技術提案書を提出した全4者が審査を通過。8月28日に延岡市役所で行った第二次審査(公開プレゼン・ヒアリング)の結果を踏まえ、優秀者に香山壽夫建築研究所、次点者に新居千秋都市建築設計を特定した。
一方、市内企業に関しては、参加表明書や技術提案書等による書類審査の結果を踏まえ、優秀者に▽小嶋凌衛建築設計事務所▽菊池設計▽松下設計▽コトブキ▽オーツ設計―のグループを特定した。代表企業優秀者に特定された香山壽夫建築研究所は、市内優秀者グループと設計共同体を結成し、9月下旬にも市と契約を交わす見通し。
公開プレゼンで香山壽夫建築研究所は、野口記念館の佇まいを継承し、全ての市民に使いやすい、新たな文化芸術活動の創造・活性化の場とすることを提案。施設前面に設ける交流ラウンジ「野口遵どおり」などの3つの通りに面して諸室を配置するほか、かつての延岡城下武家屋敷街区の入口・京口門を象徴的に再現するイメージも示した。
設備・環境面に関しては、エネルギーのベストミックスのシステム構築や熱負荷の低減、高気密・高断熱化などを提案。意匠・構造面では、▽地震に対抗するRC壁式構造▽建物高さを抑えつつ舞台・客席高さを最大化するトラス構造▽根切り深さを最小化する基礎構造▽躯体工事への工業化製品の採用▽長寿命材料の採用―を提案した。
施設の基本理念や市が求める要求を実現するため、設計プロセスを細分化することで意思決定の明確化を図るとともに、基本設計の初期段階で充分な人員を投入し、早期の問題解決を図る。設計初期から全工種で複数案のコストを検証し、最も費用対効果の高い計画を立案するほか、ワークショップ等を通じて市民意見を設計に反映させる。
同社の提案に対して、審査講評では「全体ボリュームをコンパクトにしつつ、場の拠点生や象徴性を高めた計画にほとんど破綻は無く、完成後の持続的な運営についても空間的配慮を含めた具体的な言及があった」「設計コンセプトの明快さと奥深さ、地域の歴史・文化への尊敬と理解は多くの選定委員の共感を得た」と言及した。