▲維持修繕の応札状況
国土交通省は、維持修繕工事の品質確保や発注の在り方を話し合う有識者会議を立ち上げた。インフラの維持管理・更新費が増加する一方、採算性が悪く、業務負担も重い維持修繕工事に対する業界の受注意欲は低く、1者応札の発生率が他の工事よりも高い結果が出ている。ただ、維持修繕工事の受注者は、災害発生直後の応急復旧にも当たる。国交省は、維持修繕工事の入札契約方式や積算方法を見直して収益性を改善し、維持修繕工事の担い手を確保できれば、災害時の体制強化にもつながるとみている。
12月12日、「発注者責任を果たすための建設生産・管理システムのあり方に関する懇談会」に設置した「維持管理部会」の初会合を開いた。
直轄工事では、年間1万件前後の発注件数のうち、維持修繕工事は3000~3500件を占める。さらにこのうち、複数年契約の維持工事(道路・河川の維持、保全、清掃、除草、除雪など)が占める割合が年々高まっている。
ただ、厳しい採算性や重い事務負担を背景に、一般土木工事よりも企業側の受注意欲は低い。全直轄工事の1件当たりの入札参加者の平均6.78者に対し、維持工事(通年)は3.31者と半数以下。1者応札の割合も一般土木の7.5%に対し、維持工事(通年)は48.8%と半数近くを占めている。直轄工事の「維持修繕工事」の競争参加資格者数もこの5年で36.8%減少している。
国交省が維持工事の受注者に聞いたところ「夜間施工もあるために(社内でも)不人気部門」「夜間工事と昼間工事、休暇取得の調整が難しく、技術者本人の負担が大きい」「技術者を待機させるだけでも人件費が掛かる」などと、企業経営を圧迫している現状が浮き彫りになっている。
現状では「当社がやらねばという強い責任感で取り組んでいる」といった地域企業の自負に頼っている側面もある。
しかしその一方、災害発生直後のパトロールや応急復旧は維持工事の受注者が担う。12日の会合でも「維持修繕の仕組みをうまく組み立てれば、災害対応力も高まるはずだ」(全国建設業協会)といった意見も出た。国交省は、維持修繕工事の入札契約方式や積算方法を改善して収益性を高め、地域企業を育成することで、災害対応力の強化につなげたい考えだ。
■維持修繕の詳細調査、施工段階で随契
国土交通省は、維持修繕工事の品質を確保するため「設計の受注者が工事段階で関与する方式」を直轄事業で試行する。補修設計(詳細設計)では、足場を組んだ詳細調査ができないことが多く、設計段階で想定しなかった損傷が施工段階で見つかり、設計変更などの手戻りが生じるケースがある。同方式では、工事段階で詳細設計の受注者と随意契約を結び、施工者が設置した足場を利用した詳細調査などを実施。設計段階で確認できない不可視部分の損傷を施工段階で把握し、手戻りを回避する。
補修設計では、構造物全体を確認できる仮設足場を設置した詳細調査(近接目視、コンクリートはつり検査など)ができなかったり、設置年度が古いために最新履歴を含めた竣工図書がないケースも少なくない。
設計段階で十分な現地調査ができず、修繕工事の仕様を確定できなかったり、工事契約後の設計変更で手戻りが生じることがある。設計段階で想定していなかった損傷に施工者が気づかず、修繕工事自体の品質が低下する恐れもある。
「設計の受注者が工事段階で関与する方式」では、施工段階で「詳細調査・工事図面作成」を随意契約する可能性があることを詳細設計の発注時に条件化。設計で想定していなかった損傷が施工段階で見つかった場合、詳細設計の受注者と随意契約を結び、施工者が設置した足場を使って詳細調査を行うとともに、補修設計を修正する。
直轄事業では、施工者のノウハウを生かすことで同じ課題を解消できる「技術提案・交渉方式」も導入しており、修繕工事への適用を拡大する。
施工の難易度が高く、施工計画が複雑な工事では、施工者が設計段階で関与する「技術提案・交渉方式」を採用。施工難易度は高くないものの、構造物への近接が困難で、竣工図書がない構造物などでは「設計の受注者が施工段階で関与する方式」を試行し、手戻りや品質低下の回避を狙う。