勤労者退職金共済機構の「建退共制度に関する検討会」(座長・村上正人年金シニアプラン総合研究機構特任研究員)は11月12日、建退共制度への電子申請方式の導入や、建設キャリアアップシステムとの連携などについて意見書をまとめた。電子申請方式については、利便性などの観点から、セキュリティなどに留意しシステム開発を進め「速やかな導入を図ることが適当」とした。これを受け機構では、2021年初頭の本格導入をめどにシステム開発などを進める。またこれに先行し、建設キャリアアップシステムと連携する「就労実績報告書作成ツール」を19年早々に供用する。
電子申請方式では、共済契約者は、共済証紙の原資を電子決済か口座振替で払い込む。これを受けて機構は、被共済者の掛金に充当される退職金ポイントを専用サイト上で付与する。共済契約者はサイト上で被共済契約者の就業実績を機構に報告。機構は報告に基づき、退職金ポイントから被共済者ごとに掛金を充当する。実証実験の実施を含め導入について検討作業を進めてきた。
検討会は電子申請方式導入に当たっての留意事項として①業務系システムとの連携を視野に入れたセキュリティ対策と人為的ミスへの対策の検証。本格実施に先立つ、十分な時間をかけた試行②共済契約者も被共済者もメリットを享受できる制度設計と、分かりやすく使いやすいシステム③電子機器に習熟していない企業や技能労働者に配慮した証紙貼付方式の存続④掛金などを容易に確認することができる共済手帳の存続―などを示した。
機構では今後、関係法令の改正などに向けた関係省庁との調整が順調に進めば、19年1月からWTO政府調達協定の対象となるシステム開発の契約手続きに着手。契約手続き期間を含め約18カ月でシステム開発を進める。20年夏から試行を開始、早ければ21年初頭から本格実施に移行する。検討会の意見を踏まえ、証紙貼付方式も存続する。
実証実験でのシステムは、クラウド上で動作するマイクロソフト社のパッケージソフトウェアによって構築した。今後のシステム開発に当たっては、バージョンアップの影響などを避けるため、構成システムのうちアプリケーションは独自に開発する方針。ハードウェアはクラウドサービス利用する予定。ミドルウェアとOSの在り方は今後決める。
建設キャリアアップシステムとの連携は、キャリアアップシステムの就労データから、証紙受け渡しの就労報告書の作成を可能にするもの。統一様式の就労実績報告書の作成ツールの作成を現在進めており、19年早々に提供する。建共協の電子申請が稼働するまでの間、元請け・下請け間のデータ交換に活用できるようにする。
また、現行の日額310円の掛金に加え高額掛金を導入することについて検討会は、電子申請方式の定着後、「特別掛金」として導入を検討することが適当とした。
このほか検討会は、建退共への加入促進・履行確保や、民間工事での制度の普及について意見を示した。
加入促進・履行確保では、長期未更新者を減少させるため、75歳に達した長期未更新者に退職金請求勧奨を実施。70歳に達した未更新者には掛金納付状況を通知する。また、電子申請方式において、掛金の残額を他の工事に充当できるようにすることを検討する。
民間工事への普及では、事務の簡素化に向けて統一様式の就労実績報告書作成ツールを浸透させるなど、共済契約者が使いやすい仕組みを構築する。また。建退共制度の役割について一層の周知・広報を行う。
■元請けの9割が導入支持
勤労者退職金共済機構建設業退職金共済事業本部は、2018年1~6月に行った建退共制度の電子申請方式の実証実験の実施結果を明らかにした。電子申請方式の導入に関するアンケートでは、実験に参加した元請けの担当者の88%、下請けの担当者の49%が導入を支持した。
実証実験には元請け19社が参加。下請け72社が元請けに対して就労実績を報告した。計91社のうち大企業は14社、中小企業は77社だった。50件の工事で、261人(延べ546人)の5985日分の勤労実績報告があった。アンケートには元請け17社34人、下請け36社36人、被共済者5人が回答した。
電子申請の導入に関して元請けでは35%が「導入すべき」、53%が「一部内容を改善した上で導入すべき」と回答。合わせて88%が導入を支持した。「導入すべきでない」という回答はゼロだった。
下請けでは、一部改善すべきとする26%を含め49%が導入を支持した。一方、5%が「導入すべきでない」、23%が「導入が望ましいが、当社では当面導入しない」と回答した。
事務負担に関する元請けの回答は、「減少した」が9%、「やや減少した」が33%、「現状と変わらない」が33%、「やや増加した」が18%、「増加した」が6%。下請けは「減少した」が9%、「やや減少した」が29%、「現状と変わらない」が26%、「やや増加した」が15%、「増加した」が21%。
元請けでは、事務負担が減少したとする割合が高かったが、下請けでは増加と減少がほぼ均衡した。
自由意見では、「省力化につながると思う。費用やセキュリティに問題がなければ早期に運用してほしい」(元請け)という声の一方、「2次以下の業者は、パソコンすらない会社があり、電子申請自体が成立しない可能性がある」(下請け)という指摘があった。