国土交通省は9月12日、国土審議会土地政策分科会に新設した特別部会の初会合を開き、土地所有者の所在を把握することが難しい「所有者不明土地問題」についての議論を開始した。同省の調べによると、不動産登記簿で所有者の所在が分からない土地は全体の約20%に上っており、公共事業用地などに利用する際の手続きに多くの時間・労力・費用が割かれている。所有者の探索を円滑にするとともに、土地収用手続きの円滑化と対象の拡大などを検討し、年内に中間報告をまとめる。
部会長の山野目章夫早稲田大学大学院教授は冒頭のあいさつで「土地基本法は『土地は富をもたらす』という前提でバブル絶頂期に制定されたが、環境が大きく変貌し、土地はしばしば所有者の重荷となり、放置されることも珍しくなくなった」と、土地所有をめぐる問題を指摘した。
所有者不明土地は、不動産登記簿などの所有者台帳で所有者が直ちに判明しない土地。登記名義人が死亡し、数代にわたって相続登記が行われず、多数にわたる相続人の探索が困難になるケースもある。
国交省によると、地籍調査を行う際に不動産登記簿で所有者の所在を確認できない土地は全体の20%程度と推計される。その後、市町村が戸籍や住民票で所有者を探索すると、その割合は0.41%に低下するが、土地利用までの所有者の探索や土地収用、不在者財産管理制度などの手続きに要する労力、時間、費用は小さくない。
部会に報告された国道新設事業の例では、最終登記が1904年に行われた土地の相続調査を行った結果、法定相続人が148人いることが判明。戸籍が現存しない相続人がこのうち8人いたため、最終的には収用手続きで土地を取得した。用地交渉の開始から手続きの終了まで約3年の時間がかかったことに加え、180回を超える相続人との面会・郵送による協議が行われたという。
国交省はこうした現状を踏まえ、所有者の探索を円滑にするため、相続で生じた共有地の所有者を探索する範囲を限定したり、市町村が保有する権利者の税情報などにアクセスしやすくする仕組みを構築することを提案。探索しても所有者が不明な土地については、土地収用の簡素化や土地収用の対象事業を拡大する必要性も提起した。
所有者不明土地問題をめぐっては、次期通常国会に関連法案を提出することが政府の骨太方針に明記されている。部会はこの法案に議論の成果を反映できるよう、年内に中間報告をまとめる。