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測量技術者と地理空間情報社会 「ポジション」獲得への道筋示せ

 地理空間情報活用推進基本法が施行されて10年目となる2017年は、測量に携わる官民全ての人たちにとって節目の年だ。位置情報をはじめとした地理空間情報の屋台骨を支える測量もまた、これまでとは異なるフェーズへと突入していくことになるからだ。政府は17年度を初年度とする地理空間情報活用推進基本計画(第3期)を2月中にも閣議決定し、AI(人工知能)やビッグデータ、IoT(インターネットを介したモノの相互接続・制御)技術などを生かした世界最高水準の地理空間情報高度活用社会(G空間社会)の実現を目指す考えを国の基本方針とする。地理空間情報の多様化、高度化はさらに進む。測量技術者がこうした状況に呼応し、自らの業務領域を広げていくには、測量で得た情報を市場のニーズに応じて三次元データ化する技術力が求められる。識者の中には「ユーザーに提供する三次元データをコーディネートしたり、その品質をチェックしたりする能力が必要になる」と指摘する声もある。他の建設関連業と同様、技術者不足に直面している測量業界は、どのような人材確保・育成策に活路を見いだそうとしているのだろうか。どうすれば、地理空間情報の高度利用が進む社会の中で活躍できる測量技術者を養成することができるだろうか。

 「測量」という単語を聞いたとき、多くの人は、まず、工事現場や道路などで測量機器をのぞいて何かを測っているシーンを思い浮かべるのではないだろうか。建設業従事者でさえ、CIM(Construction Information Modeling)やBIM(Building Information Modeling)、あるいはICT土工といわれる業務領域に関わっていない人たちであれば、そうした一般的なイメージしか持ち合わせていない人がいたとしても不思議ではない。なぜなら、測量業界はこれまで、自分たちの建設生産システムにおける役割や、社会における職業としてのポジショニングを自ら進んで一般市民に、あるいは建設業界にアナウンスしてきたとは言い難いからだ。

 だが、測量の実像は、そうしたイメージとは大きく異なる。

 いまは、緯度・経度・高さはGNSS(全球測位衛星システム)による測位技術を用いてリアルタイムで測定できるし、基本測量の成果は100%電子化されている。都市計画の策定や、防災・災害時の対応、インフラの管理・保全などに幅広く活用されている公共測量にはドローンと呼ばれるUAV(無人航空機)や、レーザ計測技術の一つであるMMS(Mobile Mapping System)が活用されるようにもなっている。

 UAVは、16年に発生した熊本地震や鳥取地震などでも被災状況の迅速・正確な把握にも非常に有用であることが証明された。MMSは画像データと三次元位置情報が組み合わさった技術という特徴が、地図情報の収集や道路構造物のモニタリングだけでなく、景観阻害要因の検出などといった、さまざまな用途につながりつつある。

 16年に大ヒットし、さまざまな問題を社会に投げ掛けた「ポケモンGO」のような位置情報が要素技術の一つになっているゲームソフトやアプリケーションなどもまた、測量が生み出した新しいビジネスツールの一つだ。地理空間情報と密接不可分の立ち位置にある測量の可能性を象徴したものだといえるだろう。

 近年、公共セクターが保有する行政データのオープン化が進んできたことも手伝って、測量成果を基盤とする極めて精度の高い三次元位置情報をはじめとした地理空間情報が、今では、新たな産業創出に欠くことのできない“情報資源”としての性質を帯びるようになってきている。

 ただ、せっかく測量の業務領域を広げるチャンスが巡ってきているというのに、測量の分野も建設業や他の建設関連業と同様、技術者の高齢化と若手技術者の不足によって、高い精度を誇る日本の測量技術の継承や、地理空間情報領域へのコミットが難しくなるおそれが出てきている。

 測量法に基づき国土交通省に登録されている測量事業者数は03年をピークに減少している。中でも登録事業者の大多数を占める中小事業者ほどその減少割合が大きい。公共事業費の減少による測量事業量の減少が、中小事業者を廃業へと追い込み、その結果、若者の受け皿の多くを失うことになってしまったと考えられる。

 このような測量技術の継承をめぐる状況に危機感を持った国土地理院と測量業界が、いま特に力を注いでいるのが国民の「地理空間情報リテラシー」の向上と、地理教育の充実のための取り組みだ。

 これまでの関係者の働き掛けが実り、文部科学省がいま高校教育課程への必修科目「地理総合(仮称)」の新設に向けて学習指導要領案の検討を行っている。これに呼応するように国土地理院と測量業界は、不足している測量教育者の養成や、測量教育支援についても積極的に関与しようという姿勢を見せ始めている。

 2016年11月、日本政府観光局(JNTO)は訪日外国人旅行者数が10月30日までの累計で2005万人になったと発表した。政府は、20年には4000万人突破を目指す考えを示している。すでに、インバウンド効果を地方にも波及させようと、訪日外国人の位置情報を分析した観光ルートの開発や宿泊プランの提供も始まっている。これから東京オリンピック・パラリンピックまでの間に、都市部を中心として、「屋内測位技術」や「屋内地図情報」を利用した屋内向けの位置情報活用サービスやソリューションも急速に普及し、位置情報のシームレス化とそれに伴う新たなサービスが一気に広がっていくことだろう。

 人口減少・少子高齢社会に突入しているわが国は、医療・介護保険制度をはじめ、さまざまな社会システムの制度疲労が顕在化してきている。国土交通省が標榜するi-Construction(生産性革命)に代表されるように、官民問わず、すでに多くの分野で「生産性の向上」が求められるようになっている。

 不安定化した国内外の政治・経済状況も手伝って、ますます多様化、高度化するであろう地理空間情報をマネジメントする、コーディネートするのは誰なのか?

 過去の10年間とは「まちがいなくフェーズが変わる」と言われている次の地理空間情報活用推進基本計画(第3期)が17年度から始まる。測量業界は、これから測量の持つ可能性を具現化する優秀な人材を募り、自らの業務領域を広げていくためにも、測量技術者が地理空間高度利用社会で獲得を目指すポジションとそのロードマップを、自らの手で、声で、明確に示す必要がある。

《測量士・士補の年度別登録者数》

https://www.kensetsu-net.com/html/pdf/kiji/P00048170.pdf